修了生インタビュー aluminiinterview

「人づくりが島づくり」──人口300人の島から始まる、教育の再設計

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東京から高速船で約2時間半、人口約300人の離島・利島村。Teach For Japan(以下TFJ)の修了生である山下真一さんが、教育長補佐として島に渡ったのは、今年の春のことです。

高校への進学を機に15歳で島を出る子どもたち。利島村は、その自立を支えることを見通した教育大綱を掲げています。山下さんは、学校・教育委員会・保護者と丁寧に対話を重ねながら、その教育の「再設計」を着実に進めています。


フェロー第8期生・山下真一さん

大学卒業後、民間企業に勤務しながら教員免許を取得し、オーストラリアへ留学。その後TFJを通して福岡の中学校へ赴任し、プログラム修了後は福岡女子商業高校で教務主任としてカリキュラムマネジメント等を担う。2026年4月より東京都利島村の教育長補佐兼校長補佐として、島の教育改革に携わっている。 


「人づくりが島づくり」──村全体に関わる教育大綱を、学校の中で息づかせる

——利島村の教育ビジョンについて教えてください。

利島村には「人づくりが島づくり」という教育大綱があります。村民の方も含めて一緒に考えていったビジョンで、島全体に関わるものとして捉えられています。大きな枠組みで言うと、「当事者」「自立」「一体感」という三つのキーワードがあり、教育の中でそれを大事にしていくというものです。

利島村には高校がないため、15歳になると子どもたちは島を出ていくという現実があります。 時代の流れによっては通信制という選択肢もあるので、必ずしも島を出るということではなくなってくるとは思いますが、現時点ではそこに向けて子どもたちの自立をサポートする教育をしていこうという形になっています。

——実際に赴任されてみて、現場の様子はいかがでしたか?

明確な教育大綱があるので、既にそれに基づいた教育がなされているという認識でいたのですが、実際に入ってみると「まだここから一緒に育てていける」という伸びしろを感じました。まず今年は、教育大綱をもう一度皆で共有して、日々の実践と結びつけていくことが必要かなと。4月の初めの段階からそれを軸にいろいろ組み立てていこうという話をしたところです。

「みんなで一緒につくっていく」──納得感のある学校づくりへの道のり

——具体的にはどのような取り組みをされているんですか?

利島村の義務教育学校は、小中9年間を一貫して学ぶ少人数校です。学年をまたいだ縦割りの編成で、1〜5年生の一期と6〜9年生の二期に分かれています。 その中で、今年度はチーム担任制を始めました。利島村の場合、中学校3年生と同じ関わり方や指導のあり方を小学校1年生にそのまま適用させるかというと、必ずしもそれがベストではない。一期と二期の接続を考えながら、発達段階に応じてチーム担任制の運用内容や関わり方を変えていっているのが、今年やっていることの一つです。

新しい何かをするというよりは、今までやってきたものを「当事者」「自立」「一体感」の三つのキーワードでもう一回見つめ直す。どこが削れるか、どこをよりプラスしていくか、どんなところに力を入れていくか——事前準備・事後の振り返りも全部含めて再設計していくというイメージです。

——取り組みを進める上で、意識されていたことはありますか? 

学校・教育委員会・保護者それぞれが思いを持っていたので、まずはそれぞれの立場への理解と対話を重ねることから始めました。その中で、管理職やミドルリーダーとは「教育委員会主導ではなく、学校が主体となって取り組む」という共通認識を築きました。現場の先生たちにも、「教育委員会はあくまで学校をサポートしていきたいという思いがある」ということを丁寧にやりとりしながら進めています。

保護者の方々に対しても、取り組みの目的や背景を共有しながら、意見も取り入れ、「みんなで一緒に作っていく」という納得感を持って進められるように動いています。

——保護者の方々との対話は、具体的にどんな形でされているんですか?

今までは「保護者説明会」として、決定事項を伝えるような形をとっていました。その方法では、保護者の方から意見をもらう機会があまりない、という話になって。そこで、一旦原案を共有して、「意見交換会を設けるから、ぜひそこに来てください」という形にしました。椅子も丸く並べて、皆で話せるようにしながら意見を吸い上げ、「じゃあこうしていったらいいですね」という話をするようにしています。

「今までと全然違う」──その日のうちに動いたことで、信頼が生まれた瞬間

——取り組みの中での嬉しいエピソードはありますか?

先にお話した、保護者の方々とのコミュニケーションについてです。
最初の「保護者説明会」では、保護者の方から厳しいご意見を複数もらったんです。その時に「このままで行きます」と言わずに、一旦持ち帰って、その日のうちに「再検討します」と、保護者全員に一斉連絡を入れました。 「来週までにもう一案考えるので、一旦時間をください」とお伝えしたんです。

次の日ぐらいかな、ある保護者の方に会った時に「意見を受けてすぐ発信してくれたのは、今までと全然違ってよかった」と言ってもらえて。

——その後、どう進んでいったのですか?

こちらで原案を作り直して、それをベースに意見交流会を設けました。そこでいろんな話を聞きながら、「あの時はこういう意図だったんです」「こういう背景があったんです」という話もして。原案に前回いただいた意見を取り入れた改善案を提示したところ、「安心しました」と、ポジティブな反応をもらえました。

「保護者の方とのやり取りってすごく大事だよね」というのを、その時学校全体で共有できて。「この人数だからこそ保護者の方の様々な意見が聞ける。これが環境を生かした学校運営の仕方だよね」というのを、改めて学校として実感できました。最初は難しい場面もありましたが、結果的に意見交換会を設けるという形も作ることができましたし、学校全体にとってすごくポジティブな経験でしたね。

学年も関係なく、お互いを尊敬し合っている──少人数だからこそ育まれる関係性

——子どもたちと直接関わる機会はありますか?

はい。校長補佐を兼任しているので、学校に常駐していることの方が圧倒的に多いです。この間も校庭で鬼ごっこやドッジボールをしたりとか、教室で一緒にトランプしたりとか。授業見学に入ることも日常的にありますね。 

あと、娘が島にとても馴染んでいて、いろんな方に面倒を見てもらっているんです。だから、小学校や中学校の子どもたちも娘のことを知っているんですよね。「娘のパパ」というところでも関わりがあるというか。

——子どもたちの様子で、印象的なことはありますか?

学年を超えて仲がいい、というのはありますね。基本、遊ぶ場所は一緒なので学校外でもよく会っていますし、小中の間で急に「先輩に敬語」という切断もない。みんながお互いを尊敬し合っている感じがします。

外から転校してくる子も多いので、違いを受け入れられる柔軟さも自然に持ち合わせている印象です。それは少人数だからこそできるし、この利島という環境で安心して過ごせるからこそ、自分の心が落ち着いた状態でいられる、というところがあると思います。

「こっちだ」と思ったら飛びつく──レールから外れてみて初めてわかったこと

——利島村でのキャリアの機会を知った時、すぐに応募されたそうですね。そのフットワークの軽さはどこから来ているんでしょう?

最初からフットワークが軽い訳ではありませんでした。私は小学校から私立に通い、私立の小・中・高・大と進学しました。そして、そのまま就職して…という、レールに乗るということがすごく自然だったんです。中学から高校に上がるときも「別の学校に行くという選択肢があるんじゃないか」とか、大学も別の大学を受験する同級生もいたりしたんですけど、当時は一歩踏み出せないというか。違和感を感じつつも乗っかっちゃっているみたいなところがありました。 

そんな中、自分の中で初めて“やりたいこと”ができたんです。でもそのためには今のキャリアを捨ててレールから外れなきゃいけない。それを人生の中で初めてやってみたら、「いけるじゃん」って。飛び出してみたら、やりたいことを自分で決めて動いていく方が自分の人生を生きていると思えたんです。そこから自分の意思を大切にするようになりました。

TFJを知って福岡で教育の世界に飛び込み、その後公務員試験も受けて合格しました。でも、また自分の力を引き出せそうなところ(福岡女子商業高校)があったので、公務員という立場から飛び出して——という感じで。結局自分の人生なので、「“こっちだ”と思った方に飛びついた方が納得感がある」と考えるようになりました。だから、今回のこともすぐ決断できたというところはあります。

——ご家族の反応はいかがでしたか?

妻も、僕の性格上「一旦やりたいと思ったら基本止められない」というのは理解してくれていて。もちろん大きな決断になるし、反対されたら福岡に残ろうとは思っていたんですが。

妻自身も島(奄美大島)出身で、子どもを島で子育てしたいという思いを持っていたんですね。だから、「島に行くかもしれない」という話をしたら、「島、いいじゃん」と。

ただ、奄美大島は人口4〜5万人の規模なので、妻が想像している「島」とこの利島村とでは大きな差があって、そこは妻も結構悩んだと思います。でも「島は島だから、絶対子どもにとっていい環境だよ」と話して納得してもらいました。

結果として、子どもはすごく楽しんでいますね。

「どこでも生きていける」という感覚を養う──不安も全部含めての越境体験

——これまでのキャリアの中で、越境していくことのメリットはどんなふうに捉えていらっしゃいますか?

「人はどこでも生きていける」という感覚を養えるところですかね。

自分の得意・不得意や、ここを伸ばしていきたいというのをちゃんと実感して進んでいける。ずっと同じ場所にいると、そこで求められているものをやるだけになって、いつの間にかそれしかできなくなっていくこともあるかもしれないと思います。でも出てみると、「この力って他でも通用したんだ」とか「この力はあそこだけだったんだ」というのがわかる。そうして「自分の力を発揮できる環境にどう適応していけるか」とか、「自分を輝かせる方法を自分で考える」ようになるかなと思います。

——迷いなく動いてこられたように見えますが、 不安はなかったんですか?

もちろん不安はあります。「これ本当に大丈夫なのか?」と。今回の赴任前もそうでした。前職場の福岡女子商業高校では、教務主任というポジションで、教育課程全体と、学校の目指す先を繋げる様々なチャレンジをさせてもらいました。けれど、「一つの高校と、地域全体に関わる公教育の在り方は異なるので、果たして自分は本当に通用するのか」という不安もありました。でも、それも全部含めての越境体験だと思います。

「人とのつながりが、精神的な支えだった」──フェローシップ・プログラムの意義

——改めて、フェローシップ・プログラムの2年間は今の山下さんの中でどんな価値を持っていますか?

「人とのつながり」ですかね。プログラムの過程で出会った人たちに成長させてもらったという認識もあるし、赴任した学校の人たちとのつながりもそうですし。赴任前に「あーでもない」「こーでもない」と言っていた同期のメンバーが、いろんなところで活躍しているということが、精神的な支えでしたね。

——そのつながりが今も続いているんですね。

そうですね。前職にこんな求人があるよと言ってくれたのも、同期のフェローなんですよ。周囲に現場で活躍している方たちがいるというのは嬉しいですね。大人になってビジネスで出会う人ってやっぱりビジネスの話になりがちだけれど、フェローたちとはシンプルに、学生時代からの友達みたいに話せるし、深い話もできる。「何でも話せる人」が大人になってもいるのって嬉しいなと思います。

「今を考え抜いた先に、未来がつながる」──利島発、日本の教育モデルへ

——これからの利島村での取り組みについて、今描いていらっしゃることを教えてください。

「今を大事にしながら、未来も大事にしていく」ということを、ちゃんとやっていきたいと思っています。これから大きく社会が変わっていく中で、社会に出た時に求められるスキルも変わっていく、と言われていますが、じゃあそれをどう実践に落とし込んでいくのかというところはまだ見えていない。そこに対して利島村がオリジナリティを出しながらモデルになるようにやっていきたいです。

今、「この利島という環境で育った子たちが最大限力を発揮できるようにするにはどうすればいいか」を考えて、考え抜いた先に未来につながる動きになっていけたらいいなと思っています。

——具体的に力を入れていきたい領域はありますか?

教育委員会としては、グローバル教育・探究学習・ICT教育の3つを柱としていく方針があります。
このうちグローバル教育は、単に「英語ができればいい」というのではなくて。これからは多様な価値観、日本国内だけでなく海外の人とのつながりというのは必ず起きていくので、バックグラウンドをちゃんと想像しながら人とコミュニケーションを取れるようにしていくという目的のもとで、英語学習はすごく大事にしたいと思っています。
また探究学習については、普段の授業の中で実現できるものもあると思うので、授業の設計から変えていきたいと思っています。

そして、カリキュラム・マネジメントの全体設計も考えていく必要があると思っています。まず皆でちゃんと考えて、「一回皆で検討した結果、これでやっています」と胸を張って言える状態を作ることも大事だと思っているので、そういうことも心がけていきたいですね。

——山下さんが教育を軸にここまでブレずに動いてこられている原動力は何でしょうか。

いろんな人の可能性が引き出されている社会を作っていくということが自分にも求められているし、皆にも必要な気がしています。社会全体がよりよくなっていくために、自分にできることを一生懸命やらなきゃいけないと感じていて。じゃあ自分にできることってなんだろうと考えた時に、今は教育だなというふうに思っています。原動力というより、淡々とやっていくタイプなんです。「何かが自分をここまで動かしている」というよりは、「ただやるべきことをしている」——そんな感覚ですね。

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▼山下さんの過去のインタビュー動画はこちら(2023年10月収録)

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